リズムが支える社会性―赤ちゃんから始まる“同調”

2026年6月5日(金)開始時刻: 18時
会場:アオーレ長岡

プレコングレスセミナーはどなたでも無料でご参加いただけます。
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※学術集会に参加登録されている方も別途お申し込みください。
※定員に達し次第、受付を締め切らせていただく場合があります。
※席に余裕があれば当日参加も可能ですが、参加者数把握のためにできるだけ事前参加登録にご協力ください。

日時


2026年6月5日(金)18時開始(17時30分に開場)

会場


アオーレ長岡
※会場へのアクセス方法はこちら

企画趣旨


 保育・養育の場では、語りかけや歌いかけ、身体を介したやり取りの中で、子どもと大人が自然にリズムを共有し、関係を築いている場面が少なくない。こうしたリズムを介した他者とのやり取りは、きわめて根源的な人間の営みである。しかし、そもそも「リズム」という語を耳にしたとき、私たちは何を思い浮かべているのだろうか。音楽で用いられるリズムに限らず、言葉の抑揚、他者とのやり取りにおける間合い、身体の動き、呼吸や心拍、さらには生体リズムの基調をなすサーカディアンリズムに至るまで、私たちの生活や身体には実に多様なリズムが存在している。
 2019年の赤ちゃん学会第19回大会企画シンポジウムでも「リズムの同期・同調と音楽」がテーマに取り上げられた。ここでは、マロックとトレヴァーセンによる編著『絆の音楽性――つながりの基盤を求めて(Communicative Musicality: Exploring the Basis of Human Companionship)』(Oxford University Press/音楽之友社)を読み解き、「『人間や動物の活動を調整し、他個体との協調をもたらし、多様な価値を創発させる現象』としてのリズム(丸山 2019)」が議論された。今回のプレコングレスにおいても、このようなリズムの幅広い概念を参照しながら進めていきたいと思う。
 さらに、リズムの同期・同調が社会性を育むことを示す研究結果も報告されており、それは乳児期からすでに観察されている。そして本プレコングレスで行う演奏という音楽行為も、リズムの同期・同調を生み出し、人と人とをつなぐ営みである。冒頭に示した語りかけや歌いかけ、身体を介したやり取り、そして音楽することなど、保育者や養育者が日々行っている赤ちゃんとの関わりを、「リズム」という視点から意味づけていきたい。さらに、フロアの皆様と共に赤ちゃんの育ちを支える人々が自らの関わりの中にある実践知を考える場となればと願っている。

企画


日本赤ちゃん学会音楽部会

司会

今川 恭子(元 聖心女子大学・教授)

講演1:「親子間の生けるリズムに関する試論」
蒲谷 槙介(愛知淑徳大学心理学部・准教授)
講演概要

手遊び歌や子守歌、いないいないばぁ、絵本の読みきかせ、じゃんけんになわとび、お遊戯でのダンス、運動会での歩調を合わせた行進など、乳幼児を取り巻くリズムは枚挙にいとまがない。このような進行の構造や形式が見えやすいリズムは、我々に直近の未来への見通しをもたらし、他者との同期・同調を円滑に成立させる。この観点からすれば、軍楽隊の行進のような、整然とした誤差なきリズムは一つの理想形と思われる。しかし興味深いことに、作曲家オリヴィエ・メシアン(1908 – 1992)は、こうした等量的で規則的すぎるリズムを反自然的と断じたという。実際、乳幼児とその親のやりとりを観察すると、その進行にはある程度の見通しや再現性がありつつも、やりとり自体は予測しきることのできない一回性をも孕んでいる。特に、子が泣いたときや笑ったときに、周囲の大人や仲間が情緒的・時間的にどのような間合いで応じてくれるかというリアルな局面では、その時々の諸要因が複雑に絡むゆえに、簡単に譜面に起こせるような等量的リズムは必ずしも立ち現れない。おぼろげながら観えてくるものは、親子間のやりとりにおけるある種の緩さ、不完全性、「遊び」である。本発表では、同期・同調に潜在する「遊び」を誤差と切り捨てず、むしろ生きたリズムを成り立たせるものとして議論することを試みる。そうした視点に立つことで、大人によって子の持つリズムが社会に合うよういかに「調律」されうるか、発達的展望を素描したい。

講演2:「社会性の源としての養育者-乳幼児間の身体的リズムの協応」
高田 明(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・教授)
講演概要

ジャン=ジャック・ルソー(1763/2016)は音楽と言語はその起源を同じくする、すなわちこれらはいずれも他者と関わるための精神的な欲求および情念から発すると論じた。この思想は、それまでの神学的な発想から音楽理論を解き放っただけでなく、現代の言語科学やコミュニケーション論を導くことになった(高田 2025: 41)。赤ちゃん研究は、こうした研究の経験論的な基盤を形成するとともに音楽と言語の関係を見直すための想像力を刺激し続けている。本発表では、広義のリズムをさまざまな動きの長さや強弱のパターンとしてとらえる。そして、発表者がこれまでに収集したフィールド・データや文献資料に基づいて、外界のリズム(e.g. 月や太陽の運動)と身体的なリズム(e.g. 月経周期や概日リズム)の呼応、養育者と乳幼児の間における身体的なリズムの協応(e.g. 抱きと睡眠、授乳と吸てつ、ジムナスティックと歩行行動)に注目しながら、私たちの協調的な行為や社会性の源について考察する。さらに、そうした協調的な行為や社会性が歴史・文化的に構造化された産物として養育者-子ども間相互行為、とくに乳児向け歌(Infant Directed Song)と乳児向け発話(Infant Directed Speech)を読み解くことで、音楽実践や言語実践の多様性と普遍性について再考する。

西田 紀子 Noriko Nishida(フルート)

京都市立堀川高校音楽科分校(現京都市立音楽高校)、東京藝術大学出身。シエナウインドオーケストラ/ピッコロ・フルート奏者。長野県立小諸高校音楽科非常勤講師、桐朋学園芸術短期大学非常勤講師。フルートアンサンブル「ザ・ステップ」メンバー。これまでに、フルートを野口博司、小久見豊子、大友太郎、金昌国、中野富雄、湯川和雄、P.マイゼンの各氏に師事。室内楽を山本正治氏に、ジャズ理論を栗田妙子氏に師事。

村上 康子 Yasuko Murakami(ピアノ)

東京藝術大学音楽学部器楽科ピアノ専攻を卒業、同大学大学院音楽研究科修士課程および同大学院博士後期課程(音楽教育領域)修了。博士(学術)。これまでにピアノを古賀智子、大畠ひとみ、播本枝未子、佐藤俊、辛島輝治の各氏に師事。
現在、共立女子大学児童学部教授。日本赤ちゃん学会、日本音楽教育学会、日本保育学会会員。