日本赤ちゃん学会を持続可能な学会へ
日本赤ちゃん学会理事長
中央大学教授
山口真美
小林登先生、小西行郎先生、板倉昭二先生からのバトンを受け、2024年4月より日本赤ちゃん学会理事長となりました。2代目の理事長の小西先生とは、2009年から10年近く、理事長横の事務局長として、並走させていただきました。学術集会で、すべてのシンポジウムとラウンドテーブルに目配せし、時には会場で吠えておられる小西先生の後ろ姿を拝見したことは、懐かしい思い出です。こうした先生の態度には、赤ちゃん学会設立時にあった脳科学ブームのもと、育児や保育や教育の現場に誤った拡散が起きることを憂いたものと思っています。このように、かつての赤ちゃん学会は、小西先生という心強い存在のもとで、基礎と現場のバランスを保っていたのだと思います。
私自身は、赤ちゃんの視覚と認知の発達を実験的に研究してきた基礎心理学者です。実験室にこもりがちな基礎研究者でしたが、赤ちゃん学会にかかわることにより現場に出て、科学的に立証された研究成果を育児や教育現場に還元するという機会を得ることができました。実験室では経験できなかった現場での貴重な体験は、私の研究者人生の大きな宝です。裏方事務局としては、拡散しがちだった学会内の整理と会員管理作業に尽力できたことも貴重な体験でした。
小林先生が土台を作られ、小西先生が作られた“異分野研究の融合”や“基礎研究と現場を結ぶ”数々の橋により、赤ちゃん学会は成り立っています。このバトンを受けた私は、この学会を次世代につなぐ持続可能な母体とすべく、研究室や現場におられる若手の方々に学会のバトンを渡す役割を果たせたらと思います。
日本赤ちゃん学会はいわゆる学問主体の学会とは異なり、それぞれが日々活動している現場や研究室を飛び出して、新しい出会いの可能性を提供する母体であると思います。それについては昔も今も変わらず、それぞれの研究や現場に自分達では見つけられない、全く新しい視点を与える場であると思っています。たとえば赤ちゃん学会特有の部会の活動では、育児や保育や教育の現場からの要望や疑問と研究をつなげる、現場と研究者の交流や情報交換の機会を提供しています。つまり、参加する人たちが集まって、なにかしら新しいものを持ち帰る母体、赤ちゃんを扱う現場と研究室にいる仲間たちが交流し合える母体、そして未来を創る赤ちゃんのために科学的知見を正しく社会還元できる母体として、たいせつなこの活動を継続できるようにしていきたいと願っています。
理事長として、今後は学会の顔である、学術集会の持続可能なあり方や、電子広報(HP)のリニューアル、そして理事や評議委員を若手に広げていきたいと思っています。現場や研究室にいる若手の方々は、日々忙しいことでしょう。ですがこれからの社会を作り上げる若手の方々にこそ、赤ちゃん学会という場により、自分の力だけでは得ることができないヒントをつかんでいってほしい、その学会活動を継続してほしいと願っています。基礎研究のいっそうの前進と、さまざまな子どもの問題に真摯に取り組む方たちに、赤ちゃん学会が少しでも役に立てれば幸いです。私たちの未来を作る赤ちゃんのために、日本赤ちゃん学会を持続可能な学会にすることが私の使命と考え、会員のみなさまの積極的な参加をお願いします。