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 シンポジウム2

 3歳児神話を検証する2〜育児の現場から〜

白梅学園短期大学教授 鈴木 佐喜子

4. 働く母親の増加と3歳児神話

 次に、働く母親と3歳児神話です。70年代半ば以降、パートタイムを中心に既婚女性の雇用者が増加し、専業主婦世帯と共働き世帯との比率が逆転しました。先に示しましたように「末子3歳未満」で約25%、「3〜5歳」で約4割、「6〜8歳」では約半数の母親が働いています。3歳未満では少ないとはいっても、かつてと比べれば、子どもを持つ母親が働くことは今では「当たり前」になり、小さい子どもを持つ家庭でも一つの選択肢となりつつあります。今、待機児問題、つまり保育園に入れない子どもの問題が社会的に大きな問題となっていますが、その大半は乳児です。1999年4月の厚生労働省の調査で待機児は約3万2千人おり、その約7割が0〜2歳です。無認可保育所やベビーホテルも増えつづけていると指摘されています。乳児がいても働きたい、働き続けたい母親、働かなければならない母親が増加して、その現状においついていない実態があります。このように、働く母親の増加という現実が、「母親は家庭にいるもの」「子育てに専念するのが母親」という母親像を崩し、「働く母親」も特別の存在ではなくなりました。

 アメリカの著名な小児科医ブラゼルトンは、「たくさんの悩みを抱えて、家庭にとどまっているお母さんが、自己の能力を十分発揮し、円満な生活を送っているお母さんよりも子どもにとってよいお母さんであると考えるほど私は愚かではありません」(『1・2歳児をどう育てるか』、森上史朗訳、医歯薬出版)と述べています。この指摘のように、母親が働くことが母親の精神状態にもらたす意味や家族関係へのプラス面が着目されるなかで、母親の就労の意味やとらえ方にも変化が生まれているように思います。

今、母親たちは、経済的な理由だけでなく、自分を生かしたい、社会との関わりを持ちたいなど、母親の就労への意欲は強くなっています。「自分も子どもも大切にしたい」「働くことも子育てすることもどちらも大切にしたい」と考え、働き出す母親たち、あるいは働き続ける母親たちがいるのです。

5. 乳児保育の拡充と豊かな実践の蓄積

 乳児保育と3歳児神話についてです。日本の保育制度や保育には勿論、課題や問題点もたくさんありますが、公的な制度がしっかりしており、保育者の資格と子どもの比率などが定められ、平均的に見れば、きわめて良質で、高い水準にあると考えています。特に乳児保育に着目してみますと、これだけ量的にも質的にも充実している国は、世界的でもそれほどないのではないかと思っています。

 一つは乳児保育の量的な面での拡充です。厚生労働省は、かなり長い間、3歳児神話の立場から乳児保育は必要悪であるとして、乳児保育の拡充に積極的に取り組んで来ませんでした。こうした取り組みの遅れが、大きな社会問題となった1980年のベビーホテル問題や今日の待機児問題の発生につながっていることは確かです。しかし、90年代に入ってから、低年齢児の大幅増員、0歳児保育は乳児保育指定保育所で実施するという制度からすべての保育所でゼロ歳児保育の実施を可能とした1998年の「乳児保育の一般化」により、乳児保育は確実に広がっています。

 図3は保育所入所児中の3歳未満児の占める比率の年次推移を示したものです。0〜2歳児が保育所入所児童に占める割合は、1969年7 %、1979年14%、1989年17%と徐々に増え、90年代には一貫して増え続け、1999年には、24%となっています。また、図4は年齢別入所児童数の推移を示したものですが、3歳未満の低年齢児保育が著しい伸びを示していることが明らかでしょう。1989年から0歳児で約2万7千人、1・2歳児で14万1千人増え、今日では0〜2歳児で約52万7千人の子どもが保育を受けています。今後、新エンゼルプランで2004年に低年齢児は10万人増が目標として掲げられており、乳児保育は例外的な保育ではなく、どこの保育所でも営まれる「当たり前」の保育となりつつあると言えましょう。

 二つ目は、乳児保育の内容や水準の高まりです。乳児保育の歴史を振り返りながらお話ししたいと思います。高度経済成長の時期に、働き続けたいという母親が保育者と力を合わせて共同保育所を作り、「ポストの数ほど保育所を」と行政に働きかけていくなかで、認可保育所や公立保育園が増えていきました。保育者と乳児の比率は、かつては1:10人、或いは1:8人で、子ども一人一人の要求に応えていくことは至難のわざという状況がありました。しかし、無認可保育園や熱心な民間の保育園のなかで、経済的に苦しくなるのを覚悟しながらも、0歳3人に保育者一人を基準とした保育を自主的に始め、このような努力と実績を土台にして、地方自治体のなかでも保育者一人に対して0歳児3人という独自の予算をつけるところがでて来ました。そして、国もやっと1998年の「乳児保育の一般化」の際に、保育士の数を1:6人という最低基準を1:3人以上と引き上げたのです。

 乳児の保育内容についても手さぐりの状態から、学習を深め、目の前の乳児の姿から実践を作りだし高め合ってきました。授乳の時には一人づつ抱く、個々の子どものリズムをていねいに受け止めながら生活リズムを確立していく、保育者と子どもとの関係をしっかり作っていく、揺さぶりあそび、あやしあそびなど子どもの発達にそった豊かなあそびや手づくりおもちゃを創り出すなど、今日まで乳児保育の実践が積み重ねられてきました。

 こうした実践の蓄積のなかで、保育所の保育に対する信頼が高まり、親たちからも評価されてきています。保育者たちの調査(東京都社会福祉協議会保育士会研究部「親の生活、仕事の実態と保育園への要望に関する調査」、1999年)に協力しましたことがあります。その調査のなかで、「保育園に子どもを預けて良かったこと」を聞いたところ、「安心して仕事ができる」という回答(916名中 122名 )もありましたが、「集団生活で社会性が広がる、友だちができる」「思いきりあそべる」「のびのびした生活ができる」「自立心が育つ、基本的生活習慣、生活リズムが身につく」など、「子どもの成長にとって良かった」という回答が431 名と圧倒的に多かったのです。また、地域の子どもを持つ母親が保育園に見学に来て、「保育園の子どもはよく育っている」、「子どものためにも保育園に入れたい」という声が聞かれることも少なくありません。親たちは保育園に子どもが通うことが子どもの成長にむしろプラスだと考えるようになっているのです。

 かつては保育園の子どもは発達が遅れるとか、さまざまな問題が生じると言われたのですが、保育園の保育者たちの保育実践の蓄積がそれを跳ね返してきたと言える部分もあると思います。もちろん保育園といってもさまざまな保育園がありますから、一律にそうだと言うことは乱暴だと思いますが。ただ、ここで申しあげたいのは、保育の実践というのは、固定的なものではなく、常に創造していくもので、見直してまた創り出していく側面があり、その中で今日の保育も生まれてきているということです。

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