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 シンポジウム2

 3歳児神話を検証する2〜育児の現場から〜

白梅学園短期大学教授 鈴木 佐喜子

2. 母子関係論から子どもをめぐる人間関係論へ

 もう一つは、子どもの人間関係の発達を「母子関係論から子どもをめぐる人間関係論へ」と捉えることの重要性です。

 ボウルビィが『乳幼児の精神衛生』を発表した1950年代とは、母と子をめぐる状況、社会の状況は大きく変わりました。働く母親の増加に伴い、子どもが父親と接する機会が増えたり、保育園で保育者や子ども同士で触れ合う機会が生じてきています。そのなかで、乳児期の発達研究が母子関係だけにあまりにも焦点を当てすぎ、反対に母親以外の他の人の影響には十分な注意が向けられて来なかったという批判や反省が生まれてきたのです。そして、父親や祖父母・保育者など母親以外の存在が再認識され、乳児期の子ども同士の関係の発達にも関心が向けられるようになりました。こうして父子関係の研究やソーシャルネットワークのなかで子どもの発達を捉えようとする研究の進展が見られるようになりました。また、乳児期における子ども同士の関係についても、乳児には友好な関係の形成は見られないと否定的に捉えられていたことへの見直しが行われ、0、1歳の子どもであっても、他児への関心の芽生えが見られたり、1、2歳児の子ども同士の相互交流の意味が明らかにされつつあるように思います。「母子関係論から子どもをめぐる人間関係論」へと研究が進展してきているのです。

 子どもにとって母親はもちろん大切ですが、子どもは母親とだけ過ごし、母子関係の中だけで育っているわけではありません。子どもは母親だけでなく、父親や祖父母、保育者など他の親しい大人たち、子ども同士の関係のなかでも育っていることを踏まえ、子どもをめぐる豊かな人間関係の発達論を考えていくという方向が大切なように思います。

3. 専業主婦の子育てと3歳児神話

 次に今日の子育ての実態から、3歳児神話を考えていきたいと思います。

 最初にお断りしておきたいのは、子育ての実態、「今の親」と言っても、非常に多様で、一括りに論じるということはとても難しいということです。第一子を育てている母親の年齢一つみても、ヤンママ、ギャルママと言われる十代、二十代初めの若い母親がいる一方で、高年齢出産で三十代後半、時には四十代で第一子を出産される母親もいます。十年一昔といいますが、その間には20年という開きがあるのです。働く母親といってもその働き方も多様ですし、子育ても多様です。このように、全てを一括りにして論じることが難しいことを踏まえてお話ししたいと思います。

 図1に示しましたのは、1998年の総務庁国民生活基礎調査による子どもを持つ母親の就労割合です。それによれば、末子3歳未満の子どもを持つ母親の約24(「父母ともに仕事あり」22.6%、「母のみに仕事あり」1%)が仕事をしており、約75%(「父のみに仕事あり」74.2%、「父母ともに仕事なし」1.5%)が仕事を持っていません。末子3歳未満の子どもを持つ母親の約75%、つまり圧倒的多数の母親が家庭で子育てをしているのです。その意味では「3歳までは家庭で」という考え方、3歳児神話は、今日の社会のなかにも、母親自身の考え方のなかにも根強く存在していると言っていいかもしれません。

 しかし、今日、子育てには理想的と考えられてきた専業主婦の子育てに困難が生じています。例えば図2のように、仕事を持つ母親に比べて専業主婦の母親の方が育児不安が高いことを示した調査がありますが、専業主婦の方が子育てに苛立ちを感じる割合が高く、子育ての喜びを感じる割合が低いことは、他の多くの調査でも明らかにされています。社会が大きく変化するなかで、子育てにさまざまな困難が生じていますが、とりわけ乳児を持つ専業主婦の母親の子育てにおいて、その困難が重くのしかかっているのです。

 「楽しいはずの育児が毎日、とても苦しく、悲しい。イライラして、一度怒りだすと止まらない。・・毎朝、『今日こそは優しいママでいよう』と思うのに、一時間もしないうちにイライラは爆発寸前。・・どうしたらまた優しいママに戻れますか?教えて下さい。こんな毎日、イヤです。」(『読んでくれてありがとう』、婦人生活社)

 これは育児雑誌の母親の投稿ですが、こうした苛立ちや不安を訴える母親が少なくありません。子どもとだけ向き合う生活に閉塞感や孤立感を感じ、あるいは育児不安を感じて、母親だけに負わされる子育て責任の重さに悲鳴をあげている母親が数多くいるのです。

 こうした専業主婦の子育ての困難の事実が、3歳児神話と子育ての実態との乖離を明白に示していると言えるでしょう。母子関係の大切さといっても、「密室育児」という言葉が示すように、孤立したなかで、一日中母と子だけで過ごすことが母にも子どもにも必ずしも良いとは言えないことが明らかになっています。ただ子どものそばにいるかどうかではなく、母親自身の精神状態や母親が自分の役割に満足しているかどうかが子どもとの関係に大きく影響するとういうことも明らかになってきているのではないでしょうか。

 最近になって子育て支援が大きな社会問題になり、取り組みがようやく始まりましたが、まだまだ教育や福祉の恩恵は、家庭で子育てしている母親と乳児に届いていない現状があると思います。それは「3歳までは家庭で母親」とその実態を検証することなく理想化し、今まで家庭で子育てしている親と子に対してはほとんど無策であった結果ではないかと思うのです。

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