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 日本赤ちゃん学会未来を育む赤ちゃん研究
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 第3回学術集会 シンポジウム3 「メディアと子どもの生活」

 平成15年6月1日 <司会> 榊原洋一(東京大学小児科)

15:00〜

 乳児期のメディア接触:赤ちゃんにやさしい発達環境の一つとなるために

菅原ますみ(お茶の水女子大学文教育学部)

 現代に生きる私たちは、テレビやビデオ、パソコンなどのメディアと深く関わりながら生活を送っています。テレビを見ながら育った世代が親になり、そこに生まれてくる子どもたちは本当に誕生間もない時期からこうしたメディアに囲まれて成長していくことになります。

 児童期以降の子どもの発達に及ぼすメディアの影響についてはこれまでに多くの研究がなされ一定の知見が得られてきていますが、乳幼児期については未だ不明な点が多くあります。急速な心身の発達を遂げる乳幼児への影響の実態とそのメカニズムを明らかにすることは、子どものより良い発達環境を考え、コーディネートしていく上で重要な課題の1つであると考えられます。

 子どもの発達に及ぼすメディアの影響は、視聴時間や視聴内容による直接的なものだけではなく、視聴によって時間的に圧迫される外遊びや対人的コミュニケーションなどとの関連による間接的な影響も考慮されなければなりません。親たちが子どもの発達とメディアとの関連をどう考えているかも、子どものメディア接触には大きく関係するでしょう。私たちの研究グループでは、0歳から子どもが触れるテレビ・ビデオなどの映像メディアが、どのようなメカニズムで子どもの初期発達に影響するのか、対人的環境と物理的環境との関連を含めてできるだけ広く子どもの生活全体の中で検討していきたいと考えています。今回のシンポジウムでは、0歳の子どもたちとその両親を対象とした調査の結果の一部をご紹介させていただきたいと思います。今回の調査では、以下の点を目的として実施されました:

(1) 乳児のメディア接触の実態をつかむこと
赤ちゃんの生活の中に、メディアは実際にどの程度浸透しているのでしょうか?首都圏の都市に生活する0歳児を持つ家庭の視聴実態を検討してみました。

(2) 乳児の発達の諸側面への影響メカニズムの仮説を立てること
 赤ちゃんの心身の発達や健康にメディア環境がどのような影響を及ぼしうるのか、基礎的なデータをみながら関連メカニズムの推測を試みました。

(3) 親の役割を知ること

 (2)の仮説の中では、赤ちゃんにメディアを供給する親の役割を明らかにすることが重要なポイントの1つとなりました。子どもに触れさせるメディアの内容の選択や時間のコントロール、ほかの活動との調整、また子どもにメディアが供給した情報をどう解説し伝えているのか、など、親は子どもとメディアをつなぐフィルターのような役割を持っているのではないか、と私たちは考えています。その背景として、親が置かれている子育て状況の分析も重要であり、とくに母親の子育てストレスとの関連について検討してみることにしました。

 子どもとテレビの良い関係をめざして〜TV番組制作の現場から〜

坂上浩子(NHK番組制作局)

赤ちゃんに向けたテレビ番組

 今年はテレビ放送が始まって50年目。NHKの幼児番組にも、44年の歴史をもつ「おかあさんといっしょ」をはじめさまざまな番組があります。それに加えて「世界初の赤ちゃんに向けたテレビ番組をつくろう」と動き出したのは、1995年6月のことでした。当時、放送文化基金などの調査で0〜2歳児が意外に長時間テレビを見ていることがわかったからです。「それならば乳幼児の特性を研究した上で、きちんと赤ちゃんに向けた番組を」ということで、番組開発プロジェクトを発足させました。参加してくださったのは保育士さんや心理学・教育学などの研究者、また絵本作家などのアーティストの皆さん。手探りでのチャレンジでした。

テレビ番組「いないいないばあっ!」とは?

 プロジェクトでは、赤ちゃんに番組を見せてその様子を研究しました。それによると4〜5ヶ月になると子どもはテレビへの感情表現など同調行動を示し始め、さらに10ヶ月頃になると登場人物に関心を示し、話し掛けたりするのです。つまり、テレビとのコミュニケーションが始まっているということです。そこで、遊びをふんだんに盛り込んだ番組をつくることによって、赤ちゃんの発達をゆっくりと後押しすることをねらったのです。ポイントは。

(1)TVの前の子どもに直接働きかける
(2)画面はなるべくシンプルにし、赤ちゃんに見せたいものをきっちり見せる
(3) 効果音も音楽もひとつの台詞と考え、慎重かつ大事に扱う

子どもと番組の良い関係、その可能性

 放送のスタートと平行しモニター活動も続けました。その結果、「いないいないばあっ!」は特に親や保育者の随伴視聴が有効である事がわかったのです。幼い子ほどおもしろい場面やびっくりするような場面に出会うと、一緒に見ている大人のほうを見るのです。そこで、番組では赤ちゃんの生活に即した身近な題材から要素を広げていき、コミュニケーションのきっかけになる番組づくりを心がけました。(⇒ビデオ視聴)

 番組は、視聴者がそれを有効に利用し、つぎの行動や関係性へのきっかけにしていただければ、真に生きたメディアになって行くと思うのです。

 子どもはどう映像を理解しているか

村野井均(福井大学教育地域科学部 発達科学講座助教授)

 テレビはメディアであり、視聴者と番組制作者の間に多くの約束事が存在している。何曜日の何時から放送する、主人公は誰々が演じている。脚本は誰の作品で、スポンサーはどの企業か。現実を伝えるのか、物語なのか・・・などである。子どもは、これらの約束事をいつかどこかで習得しているのである。

子どものテレビ理解と学校

 学校では、これまでも国語、社会、道徳、家庭科でテレビとのつきあい方や性役割、商業主義などを扱ってきた。情報の読みとりやゆがみへ気づく教育である。
 2002年の教科書改訂で小学校・中学校の国語科には「ニュース番組を作ろう」という単元が入った。ニュースを集め、構成表を作り、ビデオ撮影し、校内放送してみんなに見てもらう活動をするのである。子ども達は番組制作者になるのである。これで、テレビの「読み」と「書き」の学習がそろったことになる。

子どものテレビ理解

 テレビ理解の立場から言えば、子どもはテレビを間違いながら見ている。映像と音声をどう組み合わせるか、夢のシーンなのか回想シーンなのかなど、家族や友だちと会話して、修正しながら視聴している。自分の部屋で、1人でテレビを見る個別視聴は、テレビの見方を学習する機会を減らしていると危惧している。

乳児のテレビ視聴と集団

 乳児は、早い時期から画面への注視や画面への反応を行なう。理解研究をしにくいため、明確には言えないが場面の理解や簡単なストーリーは理解できていると思う。特に乳幼児向けの番組は、コーナーごとに理解すればいいので、わかりやすいと思う。
 しかし、番組と番組のつながりや番組とコマーシャルの区別は難しい。もちろん心の中の表現や象徴的表現、時制の変化などは理解できないといえる。
 2歳児は、いっしょに見ている人間がテレビに拍手したり、テレビの人に返事をすると同じ反応する。3歳児以上になると、集団でテレビを視聴する場面では、指さしをしたり、画面に映った人や物の名前を言ったりして騒がしい。何人かが交代でテレビの悪者を恐る恐る叩いたりすることもある。画面に映っている人に悪口を言ったり、大声でどなることもある。
 反応の仕方を学んだり、怖さを克服したり、テレビの中に人間が入っていないことをみんなで確認しているのである。
 テレビはみんなで見ないと理解できないメディアなのである。

 テレビ・テレビゲームが子どもの発達に及ぼす影響

坂元 章(お茶の水女子大学 大学院人間文化研究科)

テレビやテレビゲームなどの電子メディアの使用によって子どもの発達に悪影響があることが心配されている。なかでも、視力、体力、暴力性、社会的不適応、認知能力に対する悪影響は注目されているように思われる。
1. 視力
電子メディアではふつう、モニター画面すなわちVDT(Visual Display Terminal)を通じて情報が提供される。それを長時間、近距離から見た利用者は、眼に強い影響を受けるのではないかと懸念されている。実際に、これはVDT障害と呼ばれ、内外で多くの研究が行われてきた。これまでの研究は一般に、VDT接触がまず短期的な近視や眼精疲労を生じさせ、接触が長期間になると視力の低下を招くことを示唆しているように見える。

2. 体力
電子メディアに接触することによって、戸外で活動する時間が減少し、運動する機会が失われる。その結果、骨格や筋肉、さらには運動感覚が発達せず、体力の減退や肥満を招くとともに、ケガや病気をしやすくなる可能性が考えられる。現在のところ、この因果関係をしっかり特定する形で行われた研究は乏しいが、この関係は、そのもっともらしさから、研究者の間でも濃厚と捉えられているように思われる。

3. 暴力
従来、テレビの暴力シーンについては、これまでに膨大な数の研究が行われており、(a) テレビの暴力シーンが青少年の暴力性を促す方向に働くこと、(b) その影響力は大きいとは言えないが、無視できるほど小さくもないこと、(c) 暴力シーンが暴力性を促す影響力は、それがいくつかの条件を満たしたときに強まることなどが明らかにされている。近年では、テレビゲームについて同様の関心が高まっている。テレビゲームの研究はまだ少ないが、最近、その影響力を示す研究が次々に発表されており、研究者の見方は、その影響力を認める方向に傾いているように思われる。

4. 社会的不適応
現実の人間関係を離れて、電子メディアにおける仮想的な人間関係に没入していると、現実世界における人間関係を形成し維持する能力や意欲が身につかず、それが引きこもりにも結びつくという懸念があるが、テレビやテレビゲームの接触については、この懸念はあまり裏づけられていない。ただし、最近、普及しつつあるオンラインゲームについては、より深刻な悪影響があるのではないかという見方が出ている。

5. 認知能力
電子メディアが空間知覚能力など視覚的知能を伸ばすことはたびたび示されている。一方で、学力、言語能力、創造力を低下させるとする報告もあるが、研究知見にはまだ曖昧さがある。教育番組や教育ゲームは、学力など知的能力を伸ばすことがしばしば認められてきた。

 以上の知見の多くは、児童期以降の被験者を対象とする研究によって出されてきたものであり、乳幼児期の子どもに関する研究は不足している。テレビないしビデオについては、乳幼児期から長時間それにさらされていることが指摘され、その悪影響が懸念されているので、乳幼児期の子どもを対象とした研究が必要である。

 現代の家族と子どものメディア接触−−子どもの育ち全体を見通して

汐見稔幸(東京大学大学院教育科学研究科)

1. 乳児期を、人間の認知システムの内的構成という視角からみると、(1)世界がどうなっているかということと、(2)世界を把握するにはどうすればいいかということのふたつ、つまり世界観の基本と世界認識の基本がつくられていく時期と考えられる。

2. このことがスムーズに進行するためには、乳児が能動的に五感と身体を駆使して対象に働きかけ、対象からの反応を受け取りながら、対象を認識していくということが不可欠である。先天的な視力喪失の人が長じて視力を回復しても、実際に手を出してものに触れるという身体操作を行うことと相手からの反応(ものや人がその人の五感に情報を伝えること)を感じ取ることを繰り返さないと、世界の立体的な構造が認識できないことはよく知られている。この同じことを、乳児期の子どもは試しているのだと考えられる。

3. ビデオやテレビが乳児の育ちや発達に問題をもたらすとしたら、それは乳児が、能動的に身体感覚を伴いながら身体操作し、対象からの反応を感じ取って、その反応を情報として伝え、さらにその情報を統合し、対象について「こうなっている」という認識枠をつくるのを励まさないということだろう。あるいは、ものを知ることや欲求の対象を手に入れるのに、他者と協同しなければいけないことがあるということを学習するチャンスがうまく与えられないことだろう。立体的な認識、あるいは温度、感触、重さなどの属性をすべて相手からの反応によって認知する認識、そうした認識を可能にする内的なシステムがうまく構成できないことや、認識における協同性がうまく学習されないことが問題だということになる。

4. しかし、そうした内的なシステムがある程度構成されれば、メディアからの情報は、類比や類推によって(類推的=間接的)理解が可能なものになる。だから、乳児期からのメディア接触がすべて問題とはならない。絵本がそういう配慮でできていることを思い知るとよい。

5. 現代の家庭は、特に専業主婦家庭に顕著であるが、子どもと母親のカプセル的な関係に閉じこめられがちで、その息苦しさから抜け出るためにテレビやビデオに子守をさせがちである。その事情を深く理解する必要があるが、その上で、せめて3歳くらいまでは過度なビデオ・テレビ視聴をさける努力と社会的支援、そして幼い子どもにも無理のないコンテンツを開発することが大事ではないかと考える。



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