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 日本赤ちゃん学会未来を育む赤ちゃん研究
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 第3回学術集会 シンポジウム2
 「共同注意の発達-社会的認知における意味と役割」

 平成15年6月1日 <司会> 板倉昭二(京都大学大学院文学研究科)

10:30〜

 共同注意と定位操作

竹下秀子(滋賀県立大学人間文化学部)

 ヒトの赤ちゃんは生後8か月ころになると、相手の指さしに反応して指された方向を見るようになる。10か月ころになると「視線追従」が可能になる。前者は相手の指先を、後者は相手のまなざしを、空間中の他の物に関係づける行動である。さらに、12か月をすぎると自ら指さして、離れたところのものを相手に示したりする。赤ちゃんの主体性に着目すれば、いずれも、相手の身体の動きのなかから、特定の身体部位を抽出し、自らの身体の運動であるまなざしや指さしによって他の物に関係づける行動だと解することができる。

 ところで、この時期の赤ちゃんは、「叩く」「置く」「入れる」「積む」など2つの物同士を関係づける操作もおこなうようになる。一方を他方に方向づけて操作するのであり、これらを「定位操作」と呼んでいる。そこに介在するのは、手指による運動であり、まなざしや指さしと同様、赤ちゃんの身体の運動である。つまり、生後半年以降の赤ちゃんは、他者であれ、物であれ、周囲の「あるもの」を自分の行為のなかにとりこんで、それを媒介として環境世界を探索するという活動を活発におこなうようになる。そのなかには、手に持っているものを相手に見せたり渡したりする行動も含まれる。つまり、対象も介在する運動も異なるが、「相手→物(他者)」と「物→物(他者)」という同型性を有する行動が平行して、あるいは互いに誘導しあうように発達していくのがヒトの初期発達の特性である。

  最近の研究では、このような共同注意と定位操作の発達の同期性が、大型類人猿や小型類人猿のテナガザルにも部分的に共有されていることが示唆されている。本発表では、自由遊びの社会的な場面で観察された、チンパンジーの積木を積む行動や並べる行動の出現と発達について紹介し、共同注意と定位操作の連関的発達の種差について議論する。これらの行動に先行する対面コミュニケーションや対象操作の発達の種差についても言及したい。

 共同注意と模倣行動

大藪泰(早稲田大学文学部)

 子どもが他者と同じ対象に注意を向け合う共同注意(joint attention)には、対面的共同注意、支持的共同注意、意図共有的共同注意、象徴共有的共同注意の4種類が想定される。それらは子どもの発達過程で順次出現し、共同注意の層構造を形成する。

 他者が対象物を使って行う動作を子どもが模倣しようとするとき、その子どもには共同注意能力が必要とされる。対象物を操作する他者の行動を模倣する場面は、共同注意が必要な関わり場面に他ならないからである。子どもに意図性の理解が芽生え、意図共有的共同注意能力が獲得されると、その模倣行動は対象物に引き起こされる結果をただ再現するのではなく、例示者の意図を汲み取った模倣行動になる可能性が高くなる。この模倣能力の獲得によって、人間の子どもは文化的産物である道具の効率的な利用が可能になったと考えられる。

 子どもの意図共有的模倣行動を検討するために、押しボタンを押すと、内部にあるミッキーマウス、プルート、ドナルドダックが回転するメリーゴーランド形式の玩具を使って、額押し模倣行動を検討した実験データを報告する。この実験で使われたメリーゴーランドには、手でボタンを押す行動を誘発させるアフォーダンスが強く備わっている。その玩具に対し、大人が額でボタンを押す行動をして見せたとき、生後9〜30か月の子どもたちはどのように振る舞うのだろうか。

 その結果を見ると、生後12か月までは、子どもの大半が手による操作行動を行っていた。生後15〜18か月では半数以上の子どもに模倣行動が出現したが、口周辺での操作が多かった。生後21か月以上になると、8割以上の子どもたちに模倣行動が出現し、その多くが額押し模倣になった。さらに、子どもによる大人の意図確認の程度を知るために、模倣行動後に子どもが見せた例示者の顔への視線の動きを検討した。手での接触など模倣行動以外の行動の場合より、口や額での模倣行動をしたときにこのチェッキングが多いことが知られた。

 押しボタンを額で押すという奇妙な行為すら模倣しようとする振る舞いは、他者の行動を共有しようという強い欲求が子どもの心に備わっていることを示している。例示者の行動に意図を察知し、その意図に自分を重ね合わせながら行動を再現して見せるのだろう。子どもの模倣行動と適切な足場(scaffolding)を備えた大人の例示行動は、子どもの文化学習の両輪であり、その基盤には子どもと大人の双方に備わる意図共有的共同注意があると考えられる。

 共同注意の発達過程 −縦断調査の結果から−

大神英裕(九州大学大学院人間環境学研究院)

 近年、共同注意の概念は、「他者が見ているところを見る」ような同時注視のレベルを超え、乳幼児が他者と共有(体験)しているという知識(あるいは第二次間主観性)のレベルまで広がってきている。その結果、研究者によってその強調点が異なり、行動的指標の数も多くなってきた。

 こうした研究動向は、共同注意行動の質的変化や個人差といった社会的理解の発達過程を巡る議論を複雑なものにしている。今後、条件規定を明確にした詳細な分析研究が主要テーマになると考えられるが、Tomasello(1995)は、9〜18ヶ月の乳幼児が自然な状況で大人とやり取りする時に、どのようにして凝視、感情の表出、対象への働きかけ、社会的行動を調節するのかについて、模倣、社会的参照、ふり遊び、言葉の獲得なども含め、関連する様々な行動間の発達的関係を縦断的に研究する必要性を論じている。

 我々は、こうした観点から、ここ数年来、乳幼児健診を巡る問題と連動させて、縦断調査を実施し、最近までに、約2000人の出生児を対象に、8〜18ヶ月まで2ヵ月ごとの質問紙による追跡調査の結果を得た。これまでのデータを新版K式発達検査に準じて標準化した結果、共同注意の指標群の出現時期が算出され、大まかな里程標を把握することが出来た。

 主な結果は、先行研究(Butterworth1995,Tomasello1995など)を支持するものであったが、指さし理解や指さし産出に比べ、社会的参照、模倣、ふり遊びなどの発達過程については、それぞれが複雑な構造をしていると考えられ、質問紙法の限界と相俟って、多くの方法論上の問題点が見出された。

 他方、早期スクリーニングの観点からの分析結果では、18ヶ月までの共同注意(標準得点)の発達軌跡が各月齢で−2SD以下(臨床域)に推移したハイリスク乳幼児は調査対象児全体の5.3%であった。いずれも、二項関係(dyad)における行動は健常群との差は見られないが、3項関係(Triad)における指さし理解のレベルから叙述の指さし産出、ふり遊び、言語の獲得と、より高次な共同注意スキルになるほど健常群との差が大きくなっている。

 本年度から、調査対象児が3歳を迎えるため、こうしたハイリスク乳幼児が3歳児健診時で、どのような発達的帰結を示すのか、乳幼児健診における早期スクリーニングと発達支援の観点から、医療・福祉関係者と連携し慎重な検討をはじめているところである。

 共同注意研究の現状:比較発達科学の視点から

板倉昭二(京都大学大学院文学研究科)

 母子の相互交渉を観察していると、母親は実によく赤ちゃんの行動や注意をモニターしていることに気づく。しかしながら、さらに深く観察すると、相手の注意をモニターしているのは母親だけではなく、実は赤ちゃんもお母さんの注意をモニターしていることがわかってくる。Butterworth.は、「誰か他の人が見ている事象を見ること」を「視覚的共同注意」と呼んだ。共同注意自体の定義についてはそれぞれの研究者で異論のあるところであるが、いずれにせよ共同注意を巡る研究は、「心の理論」の研究と同様、発達心理学のみならず、霊長類学、動物行動学、ロボット工学といったさまざまな領域で盛んにおこなわれている。

 本発表では、主に比較発達科学の視点から見た共同注意研究について報告する。特に、ヒト以外の霊長類を対象とした研究に焦点を当てることとする。ヒト以外の霊長類における現在の視覚的共同注意に関連する研究は、実験者手がかり選択課題(Experimenter-given cues task)、視線追従(Gaze following)、見ることと知ることの関係の理解(Understanding of seeing-knowing relationship)の3つに大別される。これまでの主な研究を概略すると、以下のようになる。

1) チンパンジーやオランウータンなどの類人猿は、実験者の指示的行動(指さし、頭部の動きを伴う注視、目だけの注視など)を手がかりとして正しい選択肢を選ぶことができる。
2) フサオマキザルではこうした手がかりを使う訓練は可能である。
3) 類人猿やマカクなどのサル類は、実験者の視線を追従することができる。また、同種の視線に対してはより顕著にその効果が現れる。
4) 同種同士の競合場面では、他者の持つ知識を理解していることを示唆する報告がある。

 また、このような能力は霊長類のみならず、ヒトと長い歴史を共有して来たイヌなどの家畜化された動物にも見られることが最近の研究でわかってきた。しかしながら、こうした行動が真に他者の心的状態の理解を反映したものであるかどうかはまだ今後のさらなる研究を待たなければならない。



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