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 日本赤ちゃん学会未来を育む赤ちゃん研究
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 第3回学術集会 教育講演(2)

 平成15年6月1日 <座長> 小西行郎(東京女子医大乳児行動発達学)

9:15〜

 赤ちゃんとロボットの邂逅:学習発達と教示

浅田稔(大阪大学大学院工学研究科 知能・機能創発工学専攻)

はじめに

 昨年六月、ワールドカップと時を同じくして、福岡ドームで第六回のロボカップ世界大会が開催された。世界29カ国から188チーム、1004人の選手が参加し、五日間で延べ12万の市民がロボットたちのパフォーマンスに魅了された。ロボカップは筆者と北野宏明・ソニーCSL副所長が90年代初めから人工知能とロボティクスの新たな挑戦として提唱し、97年から毎年開催している一大国際共同研究プロジェクトだ。

 現在、サッカー、レスキュー、ジュニアの三部門があり、サッカー部門では福岡大会から世界初の人間型リーグが始まり、6カ国13チームが参加した。しかし、始まったばかりで、ロボットたちはちょうど人生の最初、すなわち、よちよち歩きの赤ん坊のようだ。本来、人のケアを期待されているロボットたちが、人のケアなしでは動けないのが現状だ。

 これは、ロボットの要素技術が未熟であることも一つの要因だが、これまでのロボットが工場で働く産業ロボットを設計規範としていたことにも原因がある。定められた環境で一定の仕事を黙々とこなすロボットたちは、前世紀の近代社会のシンボルでもある。が、工場を出て、人間と共生するロボットの設計を考えるとき、変動する環境で種々のタスク、とくに人間とのコミュニケーションなどをどのように実現するかは容易ではない。近年の脳科学の進展は目覚しく、その成果をロボットに活かす試みもなされている。しかしながら、出来上がった大人の脳の機能をコピーしてロボットに移植しても、我々の期待通りに作動するであろうか? むしろそのような機能分化がどんなメカニズムと環境で出来上がって来たかのプロセスを知ることができれば、より深い理解とともにそのこと自体が、新しいロボットの設計論にならないかと考えている。 その象徴が赤ん坊だ。赤ちゃんがどのようにして、自分の身体を認知し、お母さんとコミュニケーションし言葉を覚えていくのであろうか?逆に赤ちゃんロボットの学習発達モデルがうまく人間の赤ちゃんの発達過程を説明できれば成功だ。これが「認知発達ロボティクス」だ。その設計ポイントは、ロボットに埋め込む学習機構とそれを発達させる環境構造の設計論である。

学習と教育

 われわれの研究室では、複数のロボットによるサッカー競技大会を通じた人工知能とロボティクスの大いなる挑戦「ロボカップ」を提唱していることもあり、サッカーロボットの開発を行っている。設計者が明示的にロボットの行動を規定するのではなく、ロボット自身が自分の行動を自ら生成する機構として、強化学習を採用している。強化学習は、動物の行動学習にヒントを得、報酬の与え方を工夫して、学習者(動物やロボット)に自ら行動を探索させる手法である。理論的には、無限の試行により学習が収束する。ただし、無限の試行は、ヒトでもロボットでも意味をなさない。ヒトが何度挑戦しても駄目だったら、やる気をなくしてしまうように、ロボットもギアはへたるし、バッテリーも消耗する。身体を持つことの一つの側面だ。

 青いゴールに赤いボールをシュートさせる一見簡単な行動でも、ロボットにゼロから始めさせると、とてつもなく長い学習時間を必要とする。なぜかといえば、ボールやゴールの意味も知らなければ、どのスイッチを押せば前進するのか、旋回するのかも知らない。運動の効果は自分の感覚を通じてしか認知できない。それらの関係を学習するのが、本来の目的なのだ。かといって、ゴールにいたる経路を部分的に教えてやると、そこでとどまって満足してしまい、先に進まない。あらかじめ明示的に行動を教えては意味がないのである。そこでわれわれが取った方法は、最初、偶然にゴールする確率を高めるために、ボールをゴール近くに置き、その前にロボットを配置させた、思ったとおり、ゴール確率が上がった(自信が持てた)ので、今度は少しゴールから離して試行させた。今度は、ゴールの近くにいけば、過去の学習結果からゴールにたどり着ける。このようにして段階的にゴール行動を学習できた。無限の試行が可能ならば、こんな事は必要ない。しかし、身体をもつヒトやロボットに無限の試行は不可能だ。それを環境側から助けるのが認知発達ロボティクスだ。お母さんが赤ちゃんに明示的に教えたくても教えられない。ならば、環境を介して赤ちゃんに感じさせるしかない、環境としてのお母さんの存在は重要であると同時に、ロボットの環境設計論も大切なのだ。

身体表象獲得と初期共同注意の発達

 そもそも赤ちゃんはどうやって自分の身体を認知しているのだろうか?また、お母さんとの視線合わせ(共同注意の始まり) はどのようにして発達していくのであろうか?これらのテーマに関しても、ロボットを使った認知発達実験が寄与できないであろうか?時間の許すかぎり、これらの話題についても触れて行きたい。



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